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新版 歌舞伎事典

作品

作品

●作品の分類

 歌舞伎の作品をごく大まかに分類すると、丸本物(丸本歌舞伎、義太夫物)、純歌舞伎、所作事(舞踊劇)の三種類になる。ただし、所作事はそれだけで独立した作品のほかに、丸本物や純歌舞伎の中に仕組まれている作品もある。

 丸本物は、はじめ人形浄瑠璃のために書かれた戯曲を歌舞伎向きに移しかえた作品群で、《仮名手本忠臣蔵》《菅原伝授手習鑑》《義経千本桜》《夏祭浪花鑑》などはその代表作である。純歌舞伎が原則的に上演のつど新作されたのに対し、これは幾度となく上演が繰り返されたため、しぜん演技・演出の細部に至るまでくふうや洗練が加えられ、様式的に確立している。いっぽう、純歌舞伎は、歌舞伎のために書きおろされたオリジナルの作品で、《助六由縁江戸桜》《鳴神》《暫(しばらく)》《五大力恋緘(ごだいりきこいのふうじめ)》《隅田川花御所染》《東海道四谷怪談》《桜姫東文章》《与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)》《青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)》《曾我綉侠御所染(そがもようたてしのごしょぞめ)》などが、その例である。

 次にストーリーのもとになっている事件、登場人物の役名や性格などによって分類するときは、〈時代物〉〈世話物〉〈お家物〉に大別する。時代物は、中世以前の公家や武家社会の事件を背景とした作品群で、江戸時代の庶民の日常生活の身近なところで起こった事件を扱う世話物に対する用語である。細分化すると、《菅原伝授手習鑑》や《妹背山婦女庭訓》のように王朝の公家社会を題材とする〈王朝(代)物〉、《一谷嫩軍記》《ひらかな盛衰記》《本朝廿四孝》《奥州安達原》《近江源氏先陣館》《絵本太功記》などのほか、数々の曾我兄弟の仇討を扱った狂言のように、源平合戦から戦国時代に至る戦乱を背景として武士社会を中心の題材とする作品群(これが狭義の時代物である)、そして《仮名手本忠臣蔵》《伽羅先代萩》《加賀見山旧錦絵》のように、江戸時代に諸大名の藩中で起こった事件を扱う〈お家物〉の三種類に分けることができる。もっとも、〈お家物〉は、本来〈時代物〉〈世話物〉〈お家物〉と並んで独立する概念であるが、元禄期の狂言を除いては、当時実際に起こった事件を劇化することが禁じられていたため、たとえば《忠臣蔵》が〈太平記の世界〉に仮託し、高師直・塩冶判官の役名をかりて脚色したように、形式上は〈時代物〉に包含されるのである。いっぽう〈世話物〉は、江戸時代の庶民の実生活の中で起こる事件を扱う作品群である。これを、一般的な〈世話物〉(心中・侠客・角力などを扱う)と、文化・文政期以降の江戸で生まれた〈生世話〉に分ける。《曾根崎心中》《心中天の網島》《宿無団七時雨傘(やどなしだんしちしぐれのからかさ)》《五大力恋緘》《夏祭浪花鑑》《双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)》などは前者の例、《東海道四谷怪談》《八幡祭小望月賑(はちまんまつりよみやのにぎわい)》《鼠小紋東君新形(ねずみこもんはるのしんがた)》《三人吉三廓初買》《蔦紅葉宇都谷峠》などが後者の例である。もっとも、鶴屋南北や河竹黙阿弥など、江戸作者の手になる世話物は、全体の構想が時代物ないしお家物の世界にからませてある場合が多く、演技や演出もおのずから一般の世話物より様式化されたものになるので、それらを厳密に言うときは、〈時代世話〉または〈お家世話〉と呼ばねばならないものが多い。歌舞伎の作劇には長い歴史があるために社会情勢に従っての変遷があり、厳格な概念規定による分類は行いがたいことも生ずる。たとえば、江戸時代の狂言では〈時代物〉に分類されるべきお家騒動の題材も、幕末以降実録本によっての作劇が可能になった時代の作品においては〈お家物〉と呼ばなければならないなどの例がある。

 所作事は、地となる音楽の種類によって分類される。長唄・常磐津節・清元節・富本節・竹本などによる作品がある。また、長唄地の女方舞踊として独立したもの(《京鹿子娘道成寺》《石橋》など)、一日の長い狂言の中から舞踊場面を独立させたもの(《道行旅路の嫁入》や《道行初音旅》の類)や、顔見世狂言に挿入されて初演された劇舞踊を独立させたもの(《関の扉》《戻駕》《吉原雀》《蜘蛛拍子舞》など)、変化舞踊(→変化物)として創作されたものの一曲を独立させた作(《鷺娘》《藤娘》《手習子》《羽根の禿》《保名》《小原女》、《六歌仙》の《文屋》《喜撰》など)、能や狂言から材を採ったもの(《石橋》《道成寺》《紅葉狩》《土蜘》《棒しばり》《身替座禅》の類)のように分類することもできる。

 右の分類に入りきらない作品として、近代以後に作り出された〈活歴物〉〈散切物〉および〈新歌舞伎〉などの様式による作品群がある。このうち、〈活歴物〉は〈時代物〉に、〈散切物〉は〈世話物〉に含めて考えるのが一般的である。〈新歌舞伎〉には、その両方に入る作品がある。

●世界と趣向

 歌舞伎の作品の構成について考えるとき、しばしば〈世界〉と〈趣向〉という概念が用いられる。これは元来江戸時代の狂言作者が作劇法の基本とした構成法であった。したがって、複雑で整理しにくい膨大な量の作品群を、系統別に分類する際にも有効な概念である。〈世界〉とは、作品の背景になる時代、政争・合戦・お家騒動・喧嘩・恋愛などの事件、人物の役名と基本的な立場や行動、主要な局面などを規定し、かつ制約するストーリーの大枠のことをいう。〈平家物語の世界〉〈曾我物語の世界〉〈太平記の世界〉〈お染久松の世界〉〈清玄桜姫の世界〉のようにいう。〈趣向〉は、新しい作品が構想されるとき、立作者によって新たに創案される部分で、たとえば〈身替り〉〈過誤の殺人〉〈取替え子〉〈縁切〉〈子別れ〉などのように、すでに類型化していた〈趣向〉を利用して新しい〈趣向〉にすることも行われた。一般に、〈世界〉は動かないものであり、これに即しながら自由奔放に〈趣向〉を動かすことによってまったく新しい作品を作り出すこと、これが狂言作者の仕事とされていた。〈趣向〉がすなわち作者の個性であり、作品の生命であったといえる。

 先行のある作品を念頭に置き、その場所、登場人物の立場や男女、主要な局面構成などを変更する作劇法があり、これを〈書替え〉といい、その方法によって作られた作品を〈書替狂言〉と呼んだ。すぐれた〈書替え〉は、パロディに似た効果をあげている。また、二つ以上の〈世界〉を強引に一つの作品の中で混ぜ合わせることによって、ストーリーを複雑にし、奇抜な物語を作り出す作劇法を〈綯交(ないま)ぜ〉といい、中期以降の江戸の作者によって、しばしば用いられた。

 歌舞伎の場合、戯曲に相当するものを〈台帳〉という。台帳は原則的に人に見せるものではなく、作者部屋に置かれて、後輩の作者が修業のために読むだけのものであった。むろん出版されなかった。例外的に、元禄期に出版された狂言本、江戸中期に上方で出版された絵入根本(ねほん)があるが、ともに台帳をもとにして、物語のような読み物に仕立てたものであり、台帳そのままではない。幕末の江戸で、台帳を物語に直し、各頁絵入りにした〈正本写(しょうほんうつし)〉と呼ばれる草双紙が出版されたこともある。現在伝わっている台帳のもっとも古いものは宝永年間(1704‐1711)の作品であるが、それらはほとんどが貸本屋などによって写された転写本であり、狂言作者の自筆本で伝存するのは極めて少ない。

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